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心理学を犯罪捜査と地域防犯に生かすNakayamaゼミ

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寝屋川の中学生殺人・死体遺棄事件

1 概要 
 2015年8月13日、午後11時35分ごろ、大阪府高槻市の物流会社の駐車場で、顔に粘着テープを何重にも巻かれ、両手を後ろで縛られた女性の死体が発見された。左腕や左胸、左腹部、左脚には生前に付けられたとされる約30カ所以上の切り傷があり、頭や顔には殴られた痕もあった。
 8月18日、被害者は寝屋川市立中学1年の少女(13)と判明。司法解剖の結果、少女の死因は窒息死。遺体の唇には、呼吸を止められたことをうかがわせる皮膚の変色が確認された。府警は、少女が粘着テープなどで口や鼻を塞がれて殺害された可能性が高いとみている。少女と一緒に行動していたとされ、行方不明になっている少年(12)について、事件に巻き込まれた可能性が高いものと判断し、大阪府警は公開捜査を行っていた。
 
2 犯罪者プロファイリング
(1)  犯人は被害者の顔見知りか、そうでないのか?
 両手を縛られ、顔にガムテープを巻かれた死体が発見されれば、それは間違いなく殺人事件であり、所轄に捜査本部が設置される。そして、都道府県の警察本部の捜査一課、鑑識課、機動捜査隊などから多くの捜査員が派遣される。捜査本部の指揮を執るのは、所轄の警察署長や刑事課長ではなく、捜査一課の警視クラスの警察官であり、最初に最も重視されることは、現場での鑑識活動と、被害者の特定である。
 この時点で犯罪者プロファイリングに求められることは、犯人が被害者と顔見知りかどうかということである。捜査本部に100人の刑事があてがわれた場合、犯人が顔見知りではないかと判断されたら、たとえば、被害者の身辺捜査に80人、死体の発見現場に20人を割り当てることになるであろうし、顔見知りではないと判断されたら、逆の人数配置になり、そのことがスピード解決できるかどうかに直結する。特に、初動捜査でこの判断を誤り、間違った方向に多くの刑事を投入すると、いわゆる「お宮入り」となって、未解決になるケースもある。顔見知りかどうかをできるだけ正確に、しかも早くわかるほど捜査はうまくいくことになるから、プロファイリングは重要である。
 

(2) 犯行の目的は?
 次に。犯罪者プロファイラーが質問されるのは、犯行の目的である。主に、3つが考えられる。ひとつは金銭に関連したトラブル、あるいは恨みに起因する殺人、そうでなければ性犯罪的な要素である。
 この事件では被害者らが最後にいた場所が寝屋川市駅付近と特定されたのも商店街のビデオカメラであったが、この映像はテレビのニュースででも、連日、何回も放映されているのを見たが、どうみても、数ヶ月前まで小学生であった、中学に入りたての、あどけない少年・少女にしか見えない。したがって、殺されなければならないほどの多額の金銭をもっていたとは考えられないので、先ほど挙げた第1の目的とは考えられない。また、中高生が被害者の場合、暴走族関係者による集団リンチの可能性も考えられ、特に今回のように顔面にガムテープがまかれ、両手を縛られていたことからそのことも考えてはみたが、被害者ら自身も家出のような状態であったにしろ、ビデオで見る限り、暴走族や非行仲間とつるんで行動するような印象は受けなかった。

(3) 犯行時刻は?
 ニュース番組では、自転車を駐輪場においた午後3時ころから、遺体の見つかる直前の午後11時頃までの間に殺されたのではないかとと報道されていた。被害者らが最後に確認された寝屋川駅から、高槻の駐車場まで自ら移動したとは考えにくく、犯人が被害者らを車で運んだ可能性が高いと考えるのが妥当である。そうなると、犯人は車の運転免許を持つ18歳以上である。しかも、白昼、人通りの多い駅前付近で、二人を無理矢理、車に引きずり込んだのであれば、それを目撃した人が必ず出てくるのであろうから、被害者らに声をかけて即座に乗せることができたか、あるいは被害者らが自ら車に乗り込んだと考えるべきで、つまり、犯人は被害者の顔見知りであった可能性が高いと思われた。
 また、被害者の特定が遅れたのは、女の子の身長や着衣が家族の申告と異なっていたことがひとつの原因であり、女子中学生が、野宿用に(?)、テントを買っていたという話も報道されており、事件のあった日も家に帰らず、一晩中商店街で過ごしていたことから、犯人は被害者のすぐ近くにいる人間ではないかとも考えられた。
 ところが、「今から,○○(一緒に所在不明になった男の子の姓)と電車で京都に遊びに行ってくる。多分、寝屋川にはもう帰らない、ごめんね。絶対、反対されるから私からは・・・」というLINEへの書き込みが6時45分にあるが、これをみた同級生が違和感を持ったという。本来、被害者は1人称を関西弁の「ウチ」といっているのに、この時だけ「私」になっていたからである。となると、この時、すでに犯人に拉致されていて、犯行を隠蔽する目的で被害者に成りすまして犯人が書き込みを行った可能性がある。つまり、車に乗せられたのは人通りの多い午後の時間帯ではなく、早朝となると、目撃者がいなくても不思議ではないし、被害者が自分から車に乗り込むような顔見知りの人間が犯人でなくてもいいことになってくる。

(4) 死体の遺棄場所
 死体の顔にタオルなどをかけておくのは、顔見知りの人間が犯人であるケースが、私の経験では多かった。顔見知りの人間を殺害した場合、犯人が被害者の死に顔を見たくないのか、あるいは殺害後とはいえ被害者に自分のその後の行為を見られたくないのか、真相は明らかではないが、とにかくそういうことが多かった。顔を何かで覆う場合は被害者と顔見知りの人間が犯人であるというのは、因果関係を説明できなくてもデータがそう示しているとしかいいようがない。しかし、プロファイリングというのは,本来、そういうもので、すべては過去の事件のデータベースに基づくものであって、刑事の勘やひらめきではない。ただし、本件はガムテープで顔面をぐるぐる巻きにしており、「顔を覆う」目的が異なると思う。したがって、ここでも犯人は顔見知りとは私には思えなかった。
 もうひとつ、最も重要なことは、死体の遺棄場所である。人を殺しても、死体が見つからなければ、多くの場合、殺人事件としての強制捜査は開始されない。一方、死体を殺害場所にそのまま残す、あるいはすぐに見つかるような場所に遺棄するのは、人を殺したことをむしろ誇示したいか、あるいは死体をどこか、他の場所に運んで隠すだけの、時間的・精神的余裕がなかったと見るべきであろう。殺人事件では多くの場合、できるだけ早くその場を立ち去りたいという気持ちが先行する。そして、被害者と顔見知りでなければ、そう簡単に犯人にたどり着けることはないので、わざわざ山の中に穴を死体を掘って埋めるようなことまではしない。一方、自分の家族や恋人を何らかのトラブルが理由で殺した場合、被害者の人定が判明した途端、犯人は自分が真っ先に疑われてしまうと思うから、死体の処分を綿密に行うことが多い。
 今回の事件の女の子の死体遺棄の場所は、簡単に発見されるような場所である。
 したがって、ここでも犯人が被害者と面識ありとは私には思えなかった。

(5) 捜査のポイント
 現在の我が国の犯罪捜査における「三種の神器」は、「携帯電話」、「Nシステム」、「ビデオカメラ」である。携帯電話で被害者が最後の通話(mailなどのやりとり)をした相手が犯人であることが多いし、その時間から犯行時刻を割り出せることもある。Nシステムは日本中の道路に設置された車のナンバー読み取り器で、今回の場合は死体を運ぶのに使った車を特定し、犯人逮捕に直接、結びつくものである。ビデオカメラは、寝屋川駅周辺、死体の遺棄場所付近にも設置されていた。最近では、盗難防止のため、会社や個人の家の玄関付近に防犯カメラが取り付けられている。あるいは、コンビニエンスストアでは万引きを防ぐために店の内部を写すものの他、外の道路を写しているカメラもあって、店の前を該当車両が通ったかどうかがすぐにわかる。
 死体の遺棄場所に近い所に設置されたビデオカメラから、死体を遺棄した時刻が特定されているので、その時間帯に付近を通過した車両が、当日、被害者らを最後に撮影した寝屋川駅付近のカメラにも記録されていたとなると、犯行に使われた車である可能性が極めて高い。この事件ではNシステムとビデオカメラを使って犯行車両を特定することが最大のポイントであり、拉致から死体遺棄までの犯行時刻がある程度特定できるから、寝屋川駅、死体の遺棄場所の2箇所のを該当時間帯に走っている車はさほど多くはないはずで、該当車両の所有者のアリバイをつぶし、身上調査を進めていけば、犯人にたどり着くのはさほどむずかしくはないと思われた。
 警察による人海戦術の最も得意とするところである。

3 容疑者の身柄確保
 大阪府警は8月21日、職業不詳の容疑者(45)を死体遺棄の疑いで逮捕した。同日には、もうひとりの男子中学生の死体も発見されたが、容疑者は殺人も死体遺棄も否認している。
 このあと、容疑者には類似した前科があることが新聞報道で明らかにされたが、過去の事件では殺人には至っておらず、なぜ今回は殺したのかと言う点が、最大の謎といわれていた。
 しかし、考えて見て欲しい。初犯の時には何も分からないで逮捕され、長い刑務所生活を強いられてしまうが、2度目の逮捕となると、まず、事件の発覚を恐れるので、被害届を出せないように被害者を始末してしまうケースは少なくない。今回の殺害理由も同じようなことではないかと考えられる。
 むしろ、今回のケースでわかりにくいのは、犯行動機である。
 性犯罪が目的なら、女子中学生(あるいは男の子)だけを狙えばいいのに、二人を車に乗せて連れ去っているのはなぜか。これもまた、のこされた人間が通報することを恐れてと考えれば、合点がいかないこともないが、女の子を後ろ手に縛り、左半身だけに30箇所も傷つけているのはなぜであろうか。このあたりのことは取り調べを待つしかないが、ひじょうに偏った行為なので、精神疾患の可能性もある。
 テレビのワイドショーを見ていると、出演者が訳知り顔で「動機の解明がカギですね」というのをよく聞くが、実際には、犯行動機について自供があっても、「本当にそんなことくらいで人を殺したのか」と疑うことが、私の27年間の捜査経験では多かった。逆に言えば、人を殺しても仕方がないと思えるほどの「正当な理由」はない。また、和歌山の毒入りカレー事件(1998年発生)では、最高裁で死刑が確定した時点でも、「動機不明のまま」にされており、動機の解明が事件の解決や、裁判の量刑判定にさほど重きをなさないというのもまた事実といえるだろう。


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